With コロナ(青木絵美)
去年のいつ頃だっただろう。外出自粛が叫ばれ始めたときのこと。目が覚めると、外はとてもいい天気。なんて清々しい、気持ちの良い一日のスタートだろう。その日はちょうど休日で、今日はどこに行こうかなぁと胸を弾ませながらパジャマを着替えようとしたそのとき、ハッと我に返った。いや、違う。今はコロナ禍だ。今日はどこにも行けない。そう気づいたとき、世界が一瞬にして変わっていくような感覚に襲われた。視界にはみるみる薄暗い膜が張っていき、さっきまでの清々しさが幻だったことに落胆した。それ以来、心から「コロナ」を忘れたことは一度もない。
目に見えないウイルスへの恐怖は、ここまで心に影響を与えているのかと実感した体験だった。心を病んだり体調を崩す人がいても、なんら不思議はない。こんなにもストレスを抱えた日々を私たちは過ごしているのだ。
そうした中、爆発しそうなほどの思いを抱えながら、ふと笑ってしまった自分にも出合った。番組を編集しているときだったのだが、「劇場キネマティカ」のふたりのトークがとてもくだらない話だったのだ。思わず「あはは」と声を出して笑ってしまった。そして、それまでぐるぐると考えていたことが、急にどうでもよくなっていった。
そうか。ときに「くだらないこと」は人の心を軽くしてくれるのかもしれない。思いつめているときほど、くだらないことが救ってくれるのかもしれない。もちろん、そんなことばかり放送していたら、いつか怒られてしまいそうだが、もしその陰で、涙を流していた人が思わずクスクス笑ってしまったというなら、怒られたっていいとさえ思えてくる。
今はみんな、必死でバランスを取りながら、どうにかこの状況と自分との折り合いをつけて生きている。恐怖にあえぐ人たちは不要な争いに苦しみ、いつでも心には薄暗い膜が張っている。だからこそ、ラジオからは他愛もない日常を放送し続けたい。当たり前すぎてうっかり見落としてしまいそうなことば。ときにくだらない、意味のないことば。それでもきっと誰かの心に届くことを信じ続けて。