「潮時普請(しおどきふしん)」  (佐藤千代)
ラジオ石巻の火曜日午後3時40分すぎに始まる「新たなリサイクル・リサイクリエーション」という番組がある。健全な地球環境を取り戻すために今、何をすべきかをごく身近なところから見つめて市民レベルでできることを始めませんが?という一般社団法人サステナブルデザイン工房提供の番組である。
この取り組みに賛同して月に1度の割合で集まっているグループに何度か足を運んでいる。その日は古くから石巻地方に伝わる自然と共存している習慣などについてさまざまな話が出た。その中に雄勝の大須地区出身の女性から「潮時普請」という言葉の意が語られた。潮の満ち引きに伴って浜の女性たちは磯仕事をするのだとか…。干潮になると一斉に浜に降り、フノリ、ヒジキ、ワカメを刈る明るい笑い声、闊達(かったつ)な様子が目に見えるようで充実した話し合いになったことは言うまでもない。
そして先日、その潮時普請そのものの採れたてのフノリを頂いた。折しも干潮が深夜にかかったが、この酷寒の時期にしか食べることのできないものだという。指先でつまむと、柔らかくてまるで生後3カ月ぐらいの童士の髪の毛のような繊細さである。
懐中電灯の明かりを頼りにアワビの貝殻の背でこそぎ取り、その後何度も流氷で洗っては水切り、ふわふわの状態にして届けてくださったのだ。
おわんにひとつまみ、ネギと一緒に入れ熱々のだし入りみそ汁を注いだ。口に入れると新鮮で柔らかい磯の香りが口中に広がった。自分だけ食べては申し訳ない。津波で生家を失い、里の味にありつけない友人たちに小分けにして送った。
口々においしい、フノリの味だけじゃない、郷愁も漂ってツンショウ(沈床)スオドキ(潮時)思い出して…。このおいしさはお金で買えるものじゃない。働き者の彼女によろしくと涙交じりの声が届いた。潮時普請、大切にしたい言語である。(パーソナリティー・佐藤千代)